名古屋市が開講する「まちコーディネーター養成講座」、通称マチコは、商店街やまちで活躍する人材の育成を目的に2021年にスタートしました。
講座では、商店街やまちでの実践を重ねる講師陣とともに、現地視察やワークショップを行い、まちを再生するためのプロセスやアプローチを学びます。これまでに誕生した一期生、二期生たちは、それぞれのフィールドで動き始め、まちに少しずつ変化をもたらしています。
そして2023年冬、マチコ三期が修了しました。今回は、そんな三期生たちのその後について聞くために集まってもらい、みなさんの挑戦についてお話を伺いました。
今回訪れたのは、名東区の西山商店街にある「暮らせる図書館」。
本を読むだけでなく、地域の人々が集まり、つながる場として開かれたこの場所は、マチコ三期生の藤野さんが運営に関わっている私設図書館です。
今回話を伺ったのは、こちらの3名。
会社員として働きながら、週末はカメラマンとしても活動する中村春奈さん。建築設計の仕事をしながら、まちづくりに関わる伊藤朱里さん。そして、「暮らせる図書館」を拠点に、場づくりを実践中の藤野幸江さん。藤野さんは、マチコ四期ではサブリーダーとして、運営側にも関わりました。それぞれ異なるフィールドに身を置きながら、マチコでの学びを通じて、共通する想いが芽生えたようです。
中村:私は、当時は転職を考えたり、これからどうしていこうかなと悩んだりしている時期だったので、とにかく何かやってみないといけないと思っていました。ちょうどその頃に有松の商店街オープンに参加していて、マチコのことを知りました。「近くで面白いことをやっているんだな」と思い、思い切って飛び込んでみました。
伊藤:私は大学生の頃から、まちに関わることをしてみたいと思っていました。でも、就職先には自分が想像していたようなまちづくりの仕事がありませんでした。まちづくりに関わるのは難しいのかなって諦めかけていた頃に、緑区の有松でまちに関する活動をしている今の彼氏と出会い、「自分も何かやってみよう」と思うようになりました。ちょうどそのタイミングでマチコ三期生の募集を見つけて、一歩を踏み出してみました。
藤野: 私は正直、最初はまちづくりには全く興味がなかったんです(笑)。でも、この「暮らせる図書館」を始めてから、まちの人がここに集まって、いろんな人と関わる中で、何か新しいことが始まる場面をたくさん見てきました。 それがとても楽しくて「もっと外に飛び出したら、更に楽しくなるんじゃないかな?」って思い始めたんです。その時にちょうどマチコ三期の募集が始まっていたので、まちづくりについて全然知らないまま始めてしまったから、ちゃんと勉強してみようと思って飛び込ませてもらいました。 なので、今はちゃんと、まちづくりに興味があります。
中村:マチコへの参加をきっかけに、実践型まちづくり講座「Poc upスクールNAGOYA」に参加したり、地元の刈谷でイベントを実施したりすることができました。マチコでは同じグループに、とても強い存在感を放っている経営者の方がいらっしゃって。その方には「何事にも本気で取り組む」という姿勢を教えてもらいました。商店街オープンやマチコでの経験があったからこそ、いろんなことに挑戦できました。
プロジェクトに取り組む中で、計画の大切さや人と関わることの難しさを実感しました。決断や対人関係の厳しさを経験し、自分が本当に続けたい道なのかどうかを見極める機会になりました。これは、やってみないとわからないことだったので、マイナスには捉えてはいません。マチコでの経験や出会いを通して、やってみないと見えない景色があることを実感しました。おかげで一皮むけたと思っているので、とても感謝しています。
伊藤:マチコに参加する前は、「まちづくり」と聞くと、固いイメージをもっていました。でも、実際にマチコに参加してみると、私のグループには、生活の延長線上でまちづくりに携わっている主婦の方や、将来カフェを開きたいという夢をもつ大学生の方が、一日限定の間借り居酒屋やカフェを実践したり、マルシェへの出店を続けたりしていて、その姿に衝撃を受けました。
まちづくりって、もっと誰でも入れるし、仕事として捉えなくても、ちょっとしたことで関われるんだと知ることができたのは大きかったですね。同じ立場でマチコを経験した人が頑張っているのを見ると、自分が行き詰まったときの支えになるというか。「私ももう少し頑張ってみよう」と思えるんです。
藤野:私も、面白いことを考えている人たちとつながれたのがすごく良かったと思っています。自分の世界が広がりました。マチコが終わった今も時々やりとりを続けていて、そういう関係性が続いているのが嬉しいですね。もしもこれが、商店街オープンのように実際の場所で何かをやる取り組みだったら、その結果が成功か失敗かによって関係性が途切れてしまうこともあると思うんです。でも、マチコ三期では「架空の商店街」のまちづくりを通して、全員で一つの成功体験を積んだ。だからこそ、利害関係なく「一緒に学んだ仲間」という気持ちが残っているんだと思います。
藤野:なんだかマチコ三期のみなさんと、またお会いしたいですね。あの時はチームのメンバーとの交流が中心だったけれど、時間が経った今もう一度会ったら、改めて他の方ともつながり直せるような気もするし。同窓会したいね(笑)。
中村:いいですね!
伊藤:あれからいろいろと変化している人もいそうですね。
藤野:暮らせる図書館でやっていることを、客観的に見ることができたというのが大きいです。マチコ三期では、瀬戸と、金城市場と、大門商店街にお邪魔して、それぞれの場所でお話を伺いました。各エリアの方々のお話を聞いているうちに、気づくことがいっぱいあったなと。まだやれていないことだらけだってことに気がついたんです。学びが多かったですね。
藤野:なので、もっといろんな人の話を聞いてみたいんです。マチコで出会った面白い人たちの話を聞いていると、自分の視野がどんどん広がっていくのを感じました。暮らせる図書館では「妄想会議」っていう、ただただ参加者が自分のやりたいことを話すだけのイベントをやっているんですけど、そこで話を聞いていると、やりたいことはあるけれど、どう動いていいかわからないっていう人がいっぱいいるので、そういう人たちと一緒に面白い人に会いに行く、それこそマチコの講座のように、“探検”に行くみたいなプログラムをやってみたいという気持ちがあります。四期のマチコにサブリーダーとして関わることができたので、その経験をいかして、マチコでやったことを民間でチャレンジすることができたら面白いなと思います。「マチコスピンオフ」みたいなね。
中村:私は、写真のスキルをもっと磨きたいと思っています。これまでは、綺麗な写真を撮ることを意識してきたんですが、もう一歩先の「美しい写真」を撮れるようになりたい。綺麗な写真は記録として残せるし、基本的な技術としては大事だけれど、美しい写真には、その瞬間にしかないストーリーとか、感情が映し出されていると思うんです。
この「ナゴヤ商店街オープン」のホームページの写真を取らせていただく機会があったんですが、実際に商店街に立ってカメラを構えたときに、これまでに商店街オープンやマチコに参加していたから、単に「構図がきれいだ」というだけではなく、「ここであの店主さんとこんな話をしたな」とか、「ここはこんな変遷を経て工事をされているんだな」といった背景が自然と浮かんできたんです。それを感じながら撮影するのが、とても心地よかった。なので、そういう写真をもっと撮れるように、自分の感性やスキルを磨いていきたいし、いろんな人と関わりながら、写真を通じてまちにも関わっていきたいと思っています。
藤野:いやあ、すごく良い。自分のことに置き換えて、なんかもう、ぐっときちゃった。後で今の中村さんの言葉、書き留めておこうと思います(笑)。すみません、伊藤さん、どうぞ。
伊藤:私は今はまだ、「これをやりたい」と明確には決まっていないんです。でも、マチコでの学びを通じて、「まちづくりをしたい」という気持ちだけでは何も始まらない、ということを実感しました。結局、まちを動かすのは、「カフェを始めたい」とか、「何かをやりたい」と強く思っている人たちであって、そういう人がいないと何も始まらないんです。だから、「何かをやりたい」という気持ちが自然に生まれるまでは、「場を楽しむ人」としていろんな場所に関わりながら、自分にできることを探したいと思っています。
中村:「まちづくりをしたいという気持ちだけでは何も始まらない」。それ、本当に核心だと思いました。私も最初は「まちづくりって面白そう」となんとなく飛び込んだうちの一人なんですけど、マチコやいろんな活動で人と関わっていくうちに、まちを動かすのは「何かをやりたい」という強い思いを持っている人たちなんだと気づきました。そして、それを支える人や環境があってこそ、物事が前に進むんですよね。
伊藤:そうなんですよね。まずは自分がまちの中に身を置いて、いろんな人と関わりながら、自分にできることを探していきたい。そうやって関わり続ける中で、いつか「これがやりたい」というものが見つかったら、こういう暮らせる図書館のような自分で運営できる場所なのか、イベントのような場なのかはわからないですけど、コミュニティはいつか持ちたいなと思っています。
まちを面白くしたいと願う人たちが集まり、それぞれのやり方で関わりながら、新しい景色を生み出していく。その過程にこそ、まちづくりの本質があるのかもしれませんね。
これからも皆さんがどんな場所で、どんな人と出会い、どんなことを形にしていくのか、とても楽しみです。マチコ三期生としての経験が、今後の活動にどんな風にいきていくのでしょうか。またいつか、お話を伺えたらと思います。
ありがとうございました!
・ 「暮らせる図書館」名古屋市名東区西山本通2丁目27番地(@kuraseru.library)
※ 当記事は、第6回ナゴヤ商店街オープンから誕生した「かさでらのまち編集室」(@edit.kasadera)が作成しています。