2023年、名古屋市北区の大曽根商店街(オズモール)に誕生した「つどいタウン」。まちに賑わいを取り戻すために開かれたこの場所から、今、新たな“企て”と“つながり”が生まれています。
2021年度ナゴヤ商店街オープンで、活用を議論する対象となっていたこの物件。3階建てのビルの中に、あんこスイーツが楽しめる「喫茶はじまり」、アートスペース「スタート」、シェアキッチン・レンタルスペース「はじまる」、保護猫カフェ「ねこへやta助」という4店舗が入居する複合施設です。開業に辿り着くまで、どんな道のりがあったのでしょうか。そして、つどいタウンの存在は商店街にどんな影響をもたらしているのでしょうか。
物件オーナーの井上賢治さん、商店街理事の安藤美香さん、建物全体の借主で「ねこへやta助」も運営する佐藤真仁さん、商店街オープン参加者でシェアキッチン利用者の村田悦代さんにお話を聞きました。
「まちを盛り上げたい」を共通点に、商店街オープンに参加
—— 3階建て・約180平米と、広い建物ですね。商店街オープンでは、どんな経緯があってこの物件が対象となったのですか?
井上:この建物は元々、私が父から継いだ会社の研修施設として使っていた場所でした。昔はここで社員研修をしていたのですが、今は各地の事業所で研修を行うようになったので、あまり使うことがなくなったんです。これから違う活用方法を考えようかなというタイミングで、安藤さんから商店街オープンのことを聞きました。
安藤:こういう商店街活性化事業の募集があるけど、どうかなって。
井上:安藤さんとは、そのとき初めてお話ししましたね。用途の無くなってしまったビルが、まちを盛り上げる形で使ってもらえるなら良いなと思って、「ぜひ」と賛同しました。
—— そして、商店街オープンの参加者を募集した際に、飛び込んできてくれたメンバーの1人が村田さんですね。参加のきっかけは?
村田:私はずっと徒歩圏内の近所に住んでいて、子どもを連れてよく商店街に遊びに来ていたんです。大人になってからは、商店街の人通りが減って寂しく感じていました。でも、すぐ隣の大曽根本通商店街(オゾンアベニュー)で開催されている朝市には人が集まっていて、こちらの大曽根商店街にもその盛り上がりを呼び込めたら…とも思っていて。自分1人で動くのは難しいけれど、商店街オープンというみんなで集まって商店街について考えられる場があるなら、私にも何かできそう!と参加しました。
安藤:商店街オープンが始まってから、私も参加者のみなさんの様子を遠目から見守っていました。井上さんも積極的に関わってくれましたね。地域住民の方々と話し合いながら、みんなが本気でまちのことを考えてくれるのは嬉しかったです。
続々と仲間が集まり、2年越しの開業へ急発進
—— 商店街オープンの成果発表会には、多くの人が来場されていましたね。その後、「つどいタウン」の開業に至るまでは紆余曲折があったのでしょうか。
安藤:構想プランはまとまったものの、肝心の事業者が決まらず。候補者は何人かいたのですが、実現には届かなかったんです。そんなときに、佐藤さんが物件を探していると知りました。
佐藤:商店街オープンの成果発表会は興味があって見に行きましたが、当時は自分が事業者になって物件を借りようとは全く思っていませんでした。転機があったのは、それから2年経った頃。私の会社では、猫と飼い主さんの好みや状況に合わせたリノベーションをする「ねこ飼いリノベ」という事業を行っていて、事業を知ってもらうためにも、猫のいる暮らしを体感できる保護猫カフェを作れたらと考えていたんです。そこで、会社のある大曽根付近で物件を探したのですが、なかなか見つからなくて。そういえば、商店街オープンの対象だったあの物件ってどうなったんだろう?と思って問い合わせたところ、まだ事業者を探していると聞きました。空間をシェアして費用も分担できるなら運用可能だなと考えて、そこからどんどん話が進みました。
井上:3月くらいに話が決まって、夏のうちに営業開始をめざそうと、ドタバタでしたね。
村田:商店街オープンでも、シェアキッチンやレンタルスペース、コーヒーを飲める場所がある…という事業計画を立てていたので、全てではないにしろ構想が活かされて良かったです。
佐藤: 3階の「ねこへやta助」は、1階の喫茶店からドリンクを運ぶスタイル。ただ、ここを借りようと思ったときにはまだ、喫茶店だけ事業者が決まっていなかったんです。どうしようかというときに、高野さんが手を挙げてくれました。
—— 「喫茶はじまり」を運営する高野仁美さんですね。「まちコーディネーター養成講座」の卒業生として取材もさせていただきました。
佐藤:はい。高野さんは人と人を繋ぐのがすごく得意なんです。その性格がコミュニティの機能を持つ喫茶店の運営にも向いていて、良い活躍の場になっていると思います。
井上:私も、「喫茶はじまり」には毎日のようにコーヒーを飲みにきています。物件オーナーという立ち位置ですが、つどいタウンに関わるみなさんと、建物の貸し借りだけではない関係性を築けたことが嬉しいです。
大人も子どもも、地域のみんなが集える場所に
—— 「つどいタウン」という名前の通り、最近ではこの場所にさまざまな人が集うようになってきたようですね。
佐藤:「ねこへやta助」も、地域の人たちが集うお店をめざしています。「この子、大きくなったね」って見守りながら通ってもらったり、猫を通してコミュニケーションが生まれたり。そんな空間をつくっていきたいですね。「自分では猫を飼えないけど、娘が帰省するときにここへ連れてきてもらうのが楽しみ」というご高齢の方もいて、連休のたびに来店してくださって心が温まります。アートスペース「スタート」での猫に関連する作品展示をするなど、つどいタウン内で連携もしていきたいですね。
安藤:シェアキッチン・レンタルスペース「はじまる」は、商店街が運営しています。村田さんは週2回ここを利用して、お弁当の調理・販売をしていますね。
村田:以前、近所にあったカフェで調理をしていたことがあって、また他の場所でもできたら良いなって。体に優しい食材にこだわった、健康志向のお弁当を作って販売しています。テイクアウトが中心ですが、店内で食べることもできますよ。口コミを聞いて来られる方が多くて、毎週楽しみにされている常連さんも増えてきて嬉しいです。
安藤:村田さんのように地域とのつながりを創出してくれる利用者さんは、とてもありがたい存在です。ほかにも、商店街のマルシェに出店するためにシェアキッチンを使う利用者さんもいます。「はじまる」を活用して、いつか商店街でお店を開いてくれる人が現れたら理想ですね。
佐藤:村田さんのお弁当が高齢者の方々の憩いの場を生んでいるのに対して、「喫茶はじまり」であんこ関連のイベントを開催すると若者がたくさんやってくることも。人通りの少ない商店街でも、こういう反響が起きるのは面白いですよね。
村田:これから、つどいタウンが、世代問わず地域の人たちが安心できる居場所になったら良いですね。
安藤:商店街の近隣には児童館がないので、子どもたちが過ごせるスペースを用意したいねって話も出ているんです。夏休みの時期のマルシェでは、建物前にビニールプールを置いて、「水鉄砲バトル」を開催しました。商店街の七夕まつりなどの行事で、地域のお母さんお父さんたちとのつながりもできていっていますが、もっと小学校学区まで関係性を広げていきたいですね。
まち全体を巻き込んで、大曽根に新たな流れを
—— 「つどいタウン」から商店街全体ににぎわいが波及する、そんな未来が待ち遠しいですね。
安藤:つどいタウンだけで盛り上がるのではなく、商店街全体を巻き込んでいけたらとは、常々考えています。商店街内の新しい事業者さんにもイベントに携わってもらって、少しずつバトンを繋いでいけたら。今年は、佐藤さんもイベント会場の警備を担当してくれましたね。
佐藤:少しでも役に立てたらと思って。七夕まつりの飾りつけの準備では、道具を貸し出して商店街の人たちと一緒に竹を切りに行きました。
安藤:大曽根本通商店街と合同で開催している七夕まつりは、毎年たくさんの人が集まります。でも、イベントの1日、2日限りではなく、日常の商店街にもにぎわいを創出したいですね。特に、平日は静かで寂しい。今は、ハロウィンの季節に向けて、商店街全体でスタンプラリーを企画しています。お買い物でスタンプを貯めると賞品と交換できるという特典があれば、何度も足を運んでもらえるかなって。
井上:みなさん、会うたびに何か新しいことを企んでいて、パワーを感じますね!
佐藤:大曽根周辺には、人の集まるポテンシャルがあるはず。JR・名鉄・地下鉄・バスと複数の交通路線があって乗り換えで利用する人が多いし、三菱電機名古屋製作所があって大曽根に通勤する人も多い。ドーム球場もあるし、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの練習場もあるし、スポーツ選手も見かけますね。各所と協力して、大曽根駅から地下街の「オズガーデン」を通って、大曽根本通商店街、大曽根商店街へと、人の流れを創り出せたら。
つどいタウンが開業して1年余り。まだまだこれから、大曽根のまちは盛り上がっていきそうです!
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