2018年にナゴヤ商店街オープンvol.1の舞台となった笠寺観音商店街。これまで“シェア”をキーワードに日替わりシェフが立つ食堂「かさでらのまち食堂」や小さな複合施設「かさでらのまち箱」など、新たなスポットが誕生してきました。
そして2023年には再びナゴヤ商店街オープンvol.6が笠寺で開催され、さっそく次なる動きが。
2024年9月に本笠寺駅のすぐ近くに新鮮な野菜を使った「Yasai BASE居酒屋」が、11月には改札を出て目の前にコーヒーとクラフトビールを楽しむ立ち飲みスタイルのお店「マチ・スタンドmotokasa」がオープン。そして、2025年7月には小学校の先生が開業する本屋「ブタコヤブックス」が商店街に誕生予定となっています。
ナゴヤ商店街オープンをきっかけに、まちのプレイヤーが増え続々と個人店が生まれている笠寺。窪田久美子さんが始めたマチ・スタンドmotokasaは、実はナゴヤ商店街オープンvol.6の構想をきっかけに誕生したお店で、Yasai BASE居酒屋の川村恵さんとブタコヤブックスの船張真太郎さんはプログラムの参加者さんでもありました。ナゴヤ商店街オープンvol.6の終了後、3者3様のお店づくりをスタートさせた3組に、笠寺でお店を開業するまでの経緯やいまの想いをお聞きしました。
これまでサラリーマンをしていましたが、数年前から将来のことを考えて自分で何かできないかなと思っていて。お酒が好きだったのと、自分が犬を飼っていることもあって、その時は犬と一緒に入れる飲食店をしたいと考えるようになりました。いまは本笠寺駅の改札を出てすぐのところでコーヒーとクラフトビールを楽しめる立ち飲み屋を営業しています。
これまで桜通線沿線で物件を探してきましたが、条件の合うところが見つからずなかなか次に進めずにいました。
本笠寺駅前にあるおにぎり屋「稲肴小町(いなこまち)」の店主と1年ほど前から仲良くなって「お店をやりたくて物件を探している」と話したら、「向かいの物件で何かやるらしい」と話を聞きました。商店街オープンの参加者さんが開催していた事業構想案のお披露目イベントも、出向くことはできませんでしたが情報として知っていて。
そこから自分が暮らすまちの商店街に興味が向くようになって、まずは経験と思って「かさでらのまち食堂(以下、まち食堂)」の日替わりシェフの説明会に行きました。たまたまその日はわたししか参加者がいなくて、まち食堂の運営代表をされている宮本久美子さん(商店街オープンのキャプテンでもある)たちと話をするなかで、いまの物件はどうかと提案してもらって。
まさかそんなに早くお店ができるとは思っていなかったんですけど、商店街オープンで話し合われていた事業構想が自身の作りたいお店と近かったこともあり、話がトントンと進んでいきました。商店街や駅前の賑わいづくりという要素を入れつつ、わたしの希望とすり合わせながらお店を作り上げていきました。
オープンしたのが11月上旬で、Instagramで告知をしつつ、近所のお宅に割引券付のちらしをポスティングして少しずつ常連さんもついてきています。近くの方が朝コーヒーを買いに来てくださったり、仕事終わりに寄ってくださったりしています。これまでは寒い時期だったので人通りが少なくて、これから新しいお客さんも増やしていくフェーズなのかなと思っていて。コーヒーとクラフトビールのどちらも同じくらい注文していただいて、いろんな使い方をしてもらえているなと感じています。お客さんの中には「コーヒーの香りに感動した、香りで感動したのは人生で初めて」と話してくれる方もいて、すごく嬉しかったですね。
地元の人にたくさん助けてもらいながらお店をやっています。いまの人脈のうち7割くらいは、商店街オープンをきっかけにまちの人につないでもらったご縁です。当初はすべて一人でやろうとしていたので、いま考えると無謀でした。みんなが知ってくれているので仲間がいる安心感があるし、応援してくれているなと感じています。
北海道と愛知県内に畑を持っていて、自分たちで育てた野菜を楽しんでもらえる居酒屋を営業しています。毎週のように収穫に行っているので夜営業が中心ですが、4月頃からランチ営業や惣菜とお弁当のテイクアウトも始めていきたいと思っています。
「かさでらのまち食堂」がきっかけでした。2019年に畑を始めて、夫が北海道出身なので10年後に北海道で飲食店を開業することを目指していました。東京でシェア食堂が流行っていると聞いて、名古屋にもあるんじゃないかと思って調べたらたまたま笠寺にあることを知って。自分たちで飲食店ができるのかを知るために2022年秋からまち食堂の日替わりシェフになって、市内のほかの区に住みながら月1回のオープン日は笠寺に通っていました。
まち食堂で練習をしてから北海道に行こうと思っていたので、当初は名古屋でお店を持つ気はなかったんです。2023年9月にまち食堂のLINEで、商店街オープンのプレイベントの告知があって気になって参加しました。いろんな人のやりたいという妄想バナシを聞く会だったんですが、そこでいまの物件の大家さんと意気投合して。「物件が空くから誰か借りたい人いない?」という話になって、ちょうど夫が会社を作って事務所を広くしたいタイミングだったし、まち食堂にも近かったので、会ったその日に内覧させてもらって。夫と話して借りることに決めました。それで家も笠寺に引っ越すことにして、2023年秋から笠寺で暮らし始めました。
プレイベントの翌月からプログラムが始まることを知って、お店を作っていくにあたってどんな流れで進んでいくのかを知りたくて。まちづくりのことはあまり知らなかったので、勉強になったし、まちの人と繋がることもできたので参加してよかったなと思っています。
2024年8月にまち食堂のシェフを卒業して、本格的に店舗づくりを始めました。エアコンのない中でDIYをしなきゃいけないし、畑もしなきゃいけないしでとにかく大変でした。物件を借りることになってから、目まぐるしく生活が変わっていますね。いい方向に動いていると思います。
お店を持ったことで、自分を自由に表現できる場ができてよかったなと思っています。まち食堂だと月1回なのでどうしてもメニューが限られていましたが、いまはお酒もいっぱい置けるし料理のレパートリーも増やせるし、どんどんやりたいことにチャレンジできています。自分たちがつくった野菜をすぐに提供できて、目の前で美味しいと言ってもらえたり、野菜が苦手だった人が食べられるようになったりと、とても嬉しかったです。
Instagramの広告で知りました。自分だけじゃなく家族や友人も学校の先生が多く、小学校のことしか知らないことに違和感を覚えていた時だったので、内容を読んでピンと来ましたね。あとは学生時代に知らない世界に飛び込んでみたら、周りが世話を焼いて助けてくれるという経験をしていたので、不安はありましたが何とかなるかなと思って。名東区の西山商店街にあるReading Mugさんという本屋が商店街オープンをきっかけにお店を始めたと知って、話を聞きに行ったら丁寧に教えてくれたことも参加への背中を押してくれました。
地元が南区の桜本町駅周辺で、子どもの頃から笠寺は隣町というイメージでした。妻の実家が笠寺だったので笠寺公園でプロポーズをしたということもあって、思い出の詰まったまちなので迷うことなく選びました。
まちづくりのことや苦手だった数字のことなども知れて、いろいろ刺激をもらえました。申し込んだ時点で本屋はいずれやれたらいいなと思っていたんですが、まだ夢みたいな感覚で。そうしたら妻の幼馴染も参加していて、プログラムが進む中で一緒に物件を借りませんかと誘ってもらって。結局その話は流れてしまったんですけど、妻は友人からの誘いだったので了承してくれて、商店街オープンに参加したことで本屋の開業が急に現実味を帯びてきました。
あとはどこで本屋をするかは考えていなかったんですが、ほかに人脈がある訳ではなかったし、周りの人に助けてもらえる笠寺で開業することを視野に入れて動き始めました。
まず本屋の空間が好きなんですよね。これまで学校の先生を16年続けてきて、人生の壁に当たった時はいつも本屋に駆け込んでいました。本に励まされながらこれまでやってきたので、自分の中に「この時代の思い出の1冊」みたいなものがいくつもあります。
あとは娘が「学校の先生になりたい」と言うようになって、周りに教員ばかりという環境への危うさを感じました。娘に教員以外の姿を見せることでほかの可能性も知ってほしくて。お店をオープンしてからも、いろんな職業の人を呼んでイベントを開きたいと思っています。
1年ほど探していたんですが、なかなか決まらなくて。最初の物件は決まりかけたんですけど、大家さんが最終的に貸せないという話になって流れて。2、3軒目も流れ、4軒目はきれいな物件だったんですが、いろいろあってダメになって。そして5軒目でようやく見つかったのがこれから開業予定の物件です。前から大家さんが貸すかどうかを悩まれていて、ついにOKの返事をもらって決めることができました。元呉服屋の建物で家賃も程よくて、小上がりと2階もあるし、いろんな使い方ができそうなので楽しみです。
ずっと悩んでいますが、教員がやっている本屋であることを大切にしたくて。本から学ぶことって多いと思うんですけど、子どもたちの学びを本で誘導したり勉強道具にしたりすることに違和感があります。本は先生でもあるし友達でもあると思っているので、それをおもしろがってくれる人たちに来てほしいなと思っています。3月末で一旦仕事を退職するので、4月から本格的に準備をしていく予定です。
窪田:新築戸建が増えて、ファミリー層が多くなっている印象があります。実家はあるけど若い世代は遠方にいるとか、実家を取り壊して土地を分譲している方も増えていると聞くので、これから代替わりの時期かもしれません。まちにとって大事なものは残しつつも、笠寺におもしろいスポットが増えてみんなが楽しめるまちになるといいなと思っています。
川村:わたしたちのお店は本笠寺駅の裏側にあるので、駅近でもあまり人が歩いていなくて。節分の時も笠寺観音側はたくさん人がいたけど、裏側にはなかなか来てもらえず。Yasai BASE居酒屋をきっかけに、線路を越えて笠寺を楽しめる駅裏担当になりたいと思っています。
船張:商店街オープンの舞台になった名東区の西山商店街に見学に行かせてもらったら、たくさん子どもが歩いていたんですよね。近くにマンモス校があるのも理由だと思うんですけど、笠寺はあんまり子どもを見なくて。笠寺観音商店街ももっと子どもが増えて、老若男女が目に見えるようになるといいなと思っています。
ナゴヤ商店街オープンvol.1を経て笠寺のまちにキーマンが生まれ、vol.6を通して新しい店舗がオープンし、まちの歴史や知られていない魅力を編集して外に発信していくチーム「かさでらのまち編集室」も誕生しました。“マチ、ヒト、コト、今を編む。”をキャッチコピーに、2024年5月から活動が始まっています。今回話を伺った船張さんも編集室メンバーのひとり。人とお店が育っているまち笠寺。商店街に新たな風が吹いています。
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※ 当記事は、ナゴヤ商店街オープンvol.6から誕生した「かさでらのまち編集室」(@edit.kasadera)が作成しています。