「最近、雰囲気が変わったよね」
ここ、名古屋市名東区の西山商店街を訪れる人たちから、そんな声をよく聞きます。
ナゴヤ商店街オープンに、過去2回にわたって参加してきた西山商店街。週末には特に、若いファミリーからシニア世代まで、散策を楽しむ人たちの姿が少しずつ増えています。
2019年9月オープンの複合施設「ニシヤマナガヤ」に続き、2021年10月にオープンしたのが「Reading Mug」。商店街オープンの参加者だったキムラナオミさんが、“多様性を伝える”ことをコンセプトに開いたセレクト本屋です。その店内には、グルテンフリーのお菓子屋「粉粉-konakona-」も入居しています。
今回、Reading Mugのキムラナオミさん、粉粉のなかじまかおりさん、さらにはReading Mugに通う常連の一人であり、自らも私設図書館を立ち上げた八町順子さんにお話を聞きました。商店街オープン後、それぞれにどんな変化があったのでしょうか。また、彼女たちの存在は、まちにどんな影響をもたらしているのでしょうか。
空間のシェアで、ふたりの「やりたい」を実現
—— この場所で一緒に営業を始めたキムラさんとなかじまさん。おふたりはいつ出会ったのですか?
なかじま:2021年2月に、ここで開催されていたチャリティブックショップを見に来た際に初めてお会いしました。
キムラ:商店街オープンの成果報告イベントとして、寄付によって集めた本を販売したときですね。
なかじま:商店街オープンの取り組みについては、以前から耳に入っていました。私は以前からマルシェなどに出店したり、パン教室を開催したりと活動をしていたのですが、「実店舗を開くのはまだ5年後くらいかな」と考えていたところ。チャリティブックショップは気軽な気持ちで覗いてみました。
キムラ:実は私も、2021年2月に成果報告イベントを開催したタイミングでは、本当にここで開業するかどうか迷っていました。場所は気に入っていたのですが、物件が広すぎて予算的にも手に余るので、どうしようかと悩んでいたんです。そこで、物件をシェアできるテナントを募集することにしました。
なかじま:シェアできるなら、私のイメージにぴったりな広さだと思いました。5年後と言わず今から始めるのもありかもしれないと考え始めた一方で、躊躇もありましたね。ニシヤマナガヤにも焼き菓子の店「moegiiro」さんがあるので、同じ商店街内にお菓子屋が2つあるのはどうなのかな、と。入居を本気で検討するきっかけになったのは、ニシヤマナガヤの管理人であり、商店街オープンのアドバイザーを務めている植村さんの一言です。「粉粉とmoegiiroでは方向性が違う。お菓子屋が増えてこの商店街が“焼き菓子ストリート”みたいになったら面白いんじゃない?」という言葉に、そんな考え方もあるんだ! とポジティブになれました。
キムラ:なかじまさんと相談を重ねて、4月頃には、ここで一緒に店をやろうとお互いに決心がつきました。以前は、大須商店街や円頓寺商店街の近くに住んでいたこともあって商店街が好き。この場所で店を持てることはすごくうれしかったですね。
なかじま:店の説明をするときにも、「西山商店街にある店です」と言うと、“商店街”という響きに安心してもらえます。
八町:私は昔からこの辺りに住んでいるのですが、以前は店が少なく、近隣住民が商店街に足を運ぶ理由が「バス停を利用する」くらいでした。ニシヤマナガヤ、そしてReading Mugさんや粉粉さんなどの店が増えてから、買い物をしたりお茶を飲みに来たりと目的を持って遊びに来る人が増えたと思います。
モノを売るだけではなく、人とつながる店へ
—— キムラさんは、店内でさまざまなイベントを企画していますね。なぜ本屋でイベントを開催しようと思ったのでしょうか?
キムラ:店内のスペースを活用して、多様性を伝える場・コミュニティの場をつくろうと思ったんです。商店街オープンにも一緒に参加してくれた友人をはじめ、つながりのある作家さんやアーティストの力を借りて、ラッピング講座、写真展、絵本原画展、英語のレッスン、定期読書会など毎月さまざまな企画を実施しています。
なかじま:イベントでいろんな方が来てくれるので、私もいつも楽しいです。「お茶会」など、イベント趣旨に合わせて粉粉のお菓子やドリンクを提供することもあります。
キムラ:実はこのイベントスペースは、もう1軒テナントさんが入ってくれると良いなと思っていた部分です。なにせ今はほぼ1人でイベントの運営をやっているので、ちょっと大変で。1ヶ月〜半年、1年などの期間限定でも良いので、一緒にお店を盛り上げてくれる方、興味のある方がいたらぜひ出店してみてほしいです。
—— 八町さんは西山商店街の商店街オープンに参加し、Reading Mugにはオープン後もよく来ていると聞きました。イベントにも参加しているんですか?
八町:よく参加しています。イベントを通じて商店街に人が集まるのもうれしいですし、普段出会えないような人とお話しできるのも毎回発見があって楽しいです。
キムラ:八町さんはすごく引き出しが多い方なので、イベントのたびに私も刺激を受けています。開業当初はイベントを行える「場」があることで満足していましたが、その「場」からつながる・広がることが、店の存在意義にもなっているような気がしますね。Reading Mugから新たなコミュニティが生まれ、みんなの世界が広がればうれしいです。
—— キムラさんとなかじまさんは、商店街のマルシェ「ニシヤマピクニック」の運営もしていますね。どんな経緯で始めたのでしょうか?
キムラ:商店街の会合で、西山の認知度をもっと高めるためのイベントをやれたらいいよねという話が出ていたときに、西山商店街から徒歩15分の商業施設「星が丘テラス」でイベントのお話をいただき、ニシヤマピクニックを開催しました。「商店街の店と、縁のある作家さんたちがピクニックに来た」というコンセプトで、私は名称やロゴの考案をしました。
なかじま:その後、商店街の歩道を使ったマルシェを開催することになり、みんなが気に入っていた「ニシヤマピクニック」の名前をそのまま使うことになりました。現在は、毎月第1土曜に定期開催しています。
キムラ:運営の取りまとめ役は持ち回りで、2022年9月の第1回は私が、第2回はなかじまさん、第3回以降は商店街内の各店舗が順番に担当して第3回以降は商店街内の各店舗が担当しました。今はイベント委員会を立ち上げて、委員を中心に運営をしています。
なかじま:あれこれやってみたいことはたくさんありますが、規模を大きくするよりも「長く継続させること」を大切にしています。これは、商店街の理事長のアドバイスから学んだこと。「物事を広げすぎると、楽しいはずのイベント運営も苦しくなってしまう」と、程よいところでブレーキをかけてくれるんです。いろいろな経験をしてきたからこその説得力のある言葉ですね。こうして力を合わせて企画・運営をする中で、商店街のみんなの仲も深まったと思います。
八町:私も、シャッターの降りている店の前に出店できる「ガレージセール」のブースに出店したことがあります。自宅に眠っていた日用品を並べて、通りすがりの地域の方々とも交流できました。
キムラ:近隣住民の方々がこれを機会に商店街に興味を持って、また遊びに来てくれたらうれしいですね。
—— キムラさんは、ミニ新聞「ニシヤマトリビューン」も発行していますね。
キムラ:「発行準備号」となる0号ではReading Mugと粉粉さんの紹介を、1号では西山商店街の紹介をしました。地下鉄星ヶ丘駅や西山小学校の近くに商店街があるということ自体、まだ知らない人もいるので、ニシヤマトリビューンを通して多くの人に広めたいですね。文章に添えるイラストは、「西山ギャラリー」のオーナーの姪っ子さんが描いてくれたんですよ。仕事が落ち着いた時期に、2号も準備していきたいです。
なかじま:他の地域のマルシェに出店するときも、ニシヤマトリビューンを持って行って、商店街のアピールに活用しています。
八町:1号のブックレビューのコーナーでは、私もおすすめの本の紹介を寄稿しました。次号も楽しみにしています!
—— 今後もぜひ、西山商店街を盛り上げてほしいです。そのほか、自分たちの活動から地域に影響を与えたと感じる出来事や、これから貢献してきたいことはありますか?
キムラ:平日にバス通勤をしている方が「バスの車窓から外観を眺めていて、いつかここで降りてみたいと思っていたんです」と週末にわざわざ来店してくださると、商店街に来るきっかけづくりができて良かったなと思います。ちょっと目立つ外観のおかげですね。 また、グラフィックデザイナーとして、ニシヤマトリビューンの発行やニシヤマピクニックのチラシ作成などで西山商店街の発信のお手伝いもしていけたらと考えています。
なかじま:お菓子って、生活必需品ではないと思うんです。でも、おいしい焼き菓子があると生活が豊かになりますよね。クッキーやマドレーヌが焼けるときの甘い香りには、人を幸せな気持ちにする力があると思います。ランドセルを背負った子どもたちも、通学で店の前を通るたびに「良いにおい!」と頬を緩ませています(笑) お菓子によって、まちを少しでも豊かに、幸せにできればうれしいです。
「5年後」のはずが、「今」やってきたチャンス
—— 八町さんは今年2月1日、南区の笠寺観音商店街に「casa della biblioteca かさでら図書館」をオープンさせたばかりですね。
八町:子どもの頃から本が好きで、ずっと、本にまつわる仕事をするのが夢だったんです。笠寺観音商店街の商店街オープンから生まれた「かさでらのまち食堂」に続いて、今度は「かさでらのまち箱」という新たな店が集う複合スペースがつくられるという話を聞いて興味を持ち、説明会に参加しました。でも、私もなかじまさんと同じく、開業は5年後くらいを想定していて…。笠寺はあまり馴染みのない地域で、最初は不安が大きかったですが、予想外にタイミングが早まったのはとにかく御縁を感じたから。別の仕事とも両立しながら、「かさでらのまち箱」内で私設図書館の営業をスタートさせました。
—— どんな縁があったのでしょうか?
八町:「一緒にやろうよ」と熱心に誘ってくれた方がいたんです。それが現在、私設図書館を一緒にやっている相方です。こうして声をかけてくれる方がいるなら、今が夢を叶えるタイミングなのかもしれないと考えるようになりました。実現の決め手は些細なことなのですが、私も相方も5月12日生まれで誕生日が同じだったんです。これは運命かも? と感じました。打ち合わせをしようと2人で会った場所も、「KANNON COFFEE 本山店」。無意識に“観音”に引き寄せられている! とびっくりしましたね(笑)
なかじま:縁があるときは、そういう偶然が続きますよね。
八町:昔から寺社仏閣が好きなので、お寺の近くで店を開けるなんてラッキーです。図書館内に誰でもおすすめの本を並べることができる「一箱本棚」を設置したり、店番をしながら物販など自身の活動ができる「店番チャレンジャー」を募集したり、多様な関わりしろもつくっています。
—— 「かさでらのまち箱」と笠寺観音商店街の今後の進化も楽しみです。
店づくりもイベントも、一人でできることは限られているかもしれません。だからこそ、人とつながり、時に刺激し合い、時に協力し合うことで、そこから生まれる価値は何倍にも大きくなります。
西山商店街の本屋とお菓子屋から人の輪が広がったように、偶然の出会いから夢の図書館を開いたように。こうしたつながりと行動の連鎖が、エリアに活性をもたらすのでしょう。
※取材内容は、2023年2月時点の内容です。
※「粉粉-konakona-」の現店舗での営業は2023年9月20日まで。移転先の情報は、下記よりご確認ください。
※西山商店街で本屋と一緒に街を盛り上げたい方、ミニマムなスペースで事業を始めたい方、Reading Mug・キムラまでご連絡ください!
・「Reading Mug」名古屋市名東区西山本通2-31(@reading_mug)
・「粉粉-konakona-」名古屋市名東区西山本通2-31(@kaorisbake.konakona)
・「casa della biblioteca かさでら図書館」名古屋市南区笠寺町西之門12(@kasadera.library)