今回ご紹介するのは、第5回商店街オープンから誕生した、内田橋商店街の「Calm植物店」。かつて内田橋の台所として賑わった市場「内田橋ストアー」の1階にお店を構え、植物を通じて商店街に新たな風を吹き込んでいる。
お話を伺うのは、オーナーの都築正信さん・幸子さん夫妻。そして、商店街内の不動産店に勤め、内田橋まつりや商店街オープンにも関わる内田橋商店街のコアメンバー、石原和典さんの3人。
内田橋商店街で活躍する3人に、商店街オープン後の取り組みや、そこから得た学びや課題、まちに起こった変化について伺った。
植物に対する深い愛は、母親の影響
―――子供の頃から植物が好きだったのですか?
都築(正):子供の頃は全然興味がなかったのですが、うちの母親が植物が結構好きで、お花が咲いたり綺麗に育ったりすると、「正信、咲いたよ」って見せてくれたんです。でも当時の僕はそこまで興味がなくて。「ふうん」っていう感じだったんですけど、毎回のように見せてくれるうちに、ちょっとずつ植物のことが好きになりました。あとは、僕の周りには必ず生き物がいました。植物だけでなく、犬や猫もずっと飼っていました。小学校の卒業文集には、「ペットショップを開業するのが夢」って書いていました。学校のアサガオとか野菜とかも育ててたんですけど…すぐに枯らすこともありました(笑)
―――現在もご自宅には植物がたくさんあるんじゃないですか?
都築(正):いや、そんなに多くはないですね。
都築(幸):でも、多分、あるかないかと言えば、ある方かと。一般の人のお家と比べたら多いと思います。いつの間にか増えているので…もっと広いベランダだったんですけど、布団に引っかかるな…こんなに通りにくかったかな…? って(笑)
植物への愛を受け止めてもらえた商店街オープン
―――商店街オープンに参加された経緯と、参加した感想を教えてください。
都築(正):Calm植物店を開業する前は、造園会社と、観葉植物を扱う会社に勤めていました。いつか自分のお店を持ちたいと思っていたところに、商店街オープンを石原さんに紹介していただいたので参加しました。口ベタな僕でも、第1回、第2回と何回か参加するうちに、ちょっと興味が湧いてきたというか。
石原:それまでは、「いつか独立できたらな」っていう気持ちがくすぶっていたんですよね。ちょうど商店街オープン前に。さらに、植物への深い愛と知識を理解してくれる人がなかなか周りにいなかった。でも、商店街オープンには、どちらかというと波長が合う人がたくさんいた。
都築(正):植物を追求していくと、マニアックな方が多くなっちゃうんで、話がどうしても自慢話ばっかりになっちゃうんですよ。商店街オープンでは、自分の知識をたくさん聞いていただいて、受け入れてもらえました。なので、お店を開業する前にいろんな方に出会えるっていうのが、商店街オープンの魅力ですね。あとは、商店街の良さをいろいろ勉強させてもらいました。
都築(幸):私はここが地元なんですけど、商店街に繋がりがなかったので、参加していなかったら多分誰とも話せなくて。石原さんのことは知っていたけれど、他の人のことは知らないし。知ることができてからは、「ここはこんなお店なんだ」とか、「おばあちゃんと話してみたらすごくいい人だった」といった発見があるとか。知り合いが増えてからは、みんなが優しくしてくれて「頑張ってるね」ってよく声を掛けてくれたり、子供のこともわかってくれているから「夏休みなの?」って話しかけてくれたりとか。なかなか今は地域の人が声をかけない時代なので、子供にとってもよかったなと思っています。
植物への愛が商店街へと伝播していった1年間
―――オープンしてからまもなく1年が経ちますがいかがですか?
都築(正):毎日、楽しいです。植物の管理をしたり、お水をあげたりするために、一日中お店に居られるので。夜も居られるじゃないですか。毎日考えることが本当にいろいろあるので、一日があっという間でした。
石原:やっぱり店主の「植物が大好き」っていう熱意がお客さんにも伝わるんですよね。それが伝染して、地域の方、特にご年配の方のファンがどんどん増えてきているなっていうのが目に見えてわかるもんですから。そして、こういうガラス張りという店の作りもあって、覗きやすいというか。皆さんが顔を出しやすいんですよね。 先ほど「夜も居られる」と言ってましたけれども、植物好きが高じて、夜にビールを飲みながら、植物をつまみに土いじりをやっているのをよく見かけます(笑)。本当に植物のことが大好きなんだと思います。夜に明かりがついているので、今まで真っ暗だったシャッター街に明かりがともされるっていうのは、本当にありがたいことです。
―――なんだかお店であって、お店でないようですね。
都築(正):そうですね。コレクションルームみたいな(笑)1個ずつ朝からずっと見ていると、やっぱり楽しいですね。
まちとの繋がりが増え、人が集う内田橋の拠点へ
―お店にはレンタルスペースがありますね。こちらを通じて、街との繋がりが増えましたか?
都築(正):地元の方々がお店のレンタルスペースでワークショップをやりたいと言ってくださるので、これまでにいくつかのワークショップを開催していただいたことがあります。例えば、以前には「アルコールインクアート」という、フィルムのような用紙にインクをポチョンポチョンと垂らして、その上にアルコールを数滴落としてドライヤーで乾かすと模様ができるという、昔で言う吹き絵みたいなものをやっていただきました。ご年配の方でも子供さんでも簡単に作れて、最初は結構ぐちゃぐちゃになるんですけど、好きなところを切り取って額縁に入れると、個性的な素敵な作品が出来上がります。
石原:先週は娘さんが、レンタルスペースでカフェをやっていましたね。
都築(幸):お友達とカフェをやりたいという話を担任の先生にしたら、「夏休みだからお父さんとお母さんのお店でやれるじゃない?」って言われたみたいで。せっかくだからやってみようかという話になって、最初はお友達や知り合いを呼びました。石原さんもね、テイクアウトで来てくれてね(笑)
石原:ここのレンタルスペースで、ナッツ屋さんがコーヒーを出していた影響が大きいのかな。
都築(幸):飲食の仕事を一緒にやれたらいいね、なんて話をちょっとしていたんです。ここは今はレンタルスペースだけど、将来カフェをやろうか…みたいな、まだまだすごく先の話をしています(笑)
石原:僕らとしても、商店街で子供を育むというのも目的の一つです。なので、商店街では駄菓子屋チャレンジをみなさんと一緒にさせてもらっています。ただ、子供が少ないので、もう少し子供に商店街に出向いてもらえるような仕掛けをしていきたいと思っています。そういった意味でも、ここはお子さんを通じて子供が集まる場所といった役割も担ってくださっています。
植物がまちの人のコミュニケーションを増やした
―――植物を通じて実現させていきたいことはありますか?
都築(正):レンタルスペースで植物のワークショップを開催していきたいなと思っているんですよ。寄せ植えの教室や、植物のお悩み相談会を考えています。以前に行った、弱ってきた植物をお持ちいただいて、アドバイスをさせていただく「プランツレスキュー」というイベントが好評で、いろんなお客様に来ていただきました。
都築(幸):商店街の緑化計画に関わらせていただけることになりまして、少しずつ季節の植物を花壇に植えたり、お店の看板をつけたプランターを置いたりしています。何かが植わっていると散歩するのも楽しいし、花壇が綺麗だとゴミも少なくなるだろうと考えました。ポイ捨てなんかも結構多いので、綺麗なお花があれば、良心が働いてポイ捨ても減らないかなあと。商店街のみなさんと月に一回お掃除をする日もあるので、そういうときに雑草をみんなで抜いて、ちょっとずつ綺麗にしています。まちを行く人が花壇を見て、「癒やされる」と声をかけてくれたときは、とても嬉しかったです。
石原:ここのお店ができる前と比較すると、植樹帯は本当にゴミだらけで、草がぼうぼうでした。最近では、明らかに以前より綺麗に保たれてるので、商店街の見た目も変わってきましたし、効果は出ています。花壇に水道がないので、夏に汗をかきながら、バケツで水を運んでお世話していただいています。
都築(幸):植えたらまずいね…っていうくらいの暑さのときは、ちょっと大変でしたね。
石原:依頼する側もやっぱり費用とか、何か実際はお支払いしないといけないんで、その予算を取ってやっていくんですけど、今はそれをほとんどボランティアみたいな形でやっていただいてるので。でも、先日「商店街の花壇の寄付をしたい」っていうお客さんがいらっしゃいました。
―それはすごいですね。
石原:商店街に興味をもっていただける方が増えました。例えば「何か手伝うよ」「お祭りを手伝うよ」と、イベントに関わってくださることもありました。このお店がきっかけとなって、まちにコミュニケーションが多く生まれています。
一人の人間の植物への深い愛情が、人に伝播し、人を集めた。「Calm植物店」という種が芽吹き、さらに「植物やレンタルスペースを通じた繋がり」や、「商店街の緑化活動」という種が内田橋商店街に蒔かれた。それらは今、人の交流を芽生えさせ、まちに賑わいという枝葉を伸ばしている。”Calm”の文字通り、内田橋商店街は、心地よい穏やかな空間へと、さらなる生長を目指している。
・「Calm植物店」名古屋市南区内田橋1丁目5−4(@calm_plants_store)
※ 当記事は、第6回ナゴヤ商店街オープンから誕生した「かさでらのまち編集室」(@edit.kasadera)が作成しています。