天気の良い日の散歩途中に、近所で暮らす友人とのお茶の時間に、近場でゆっくりと過ごしたい休日に。ふらっと立ち寄りたくなる場所が、わずか全長100メートルほどの商店街にあります。
今回ご紹介するのは、名古屋市名東区にある西山商店街の取り組み。お話を伺うのは、商店街内の複合施設「ニシヤマナガヤ」に関わる4人です。一人は植村建築事務所の建築家・植村康平さん。ニシヤマナガヤの中心核であり、西山商店街の副理事長を務めています。
そしてニシヤマナガヤで「焼菓子moegiiro」を営む、植村さんの奥さま・麻友美さん。「Story Coffee」の内海雄二さん。「草木花の店 たんぽぽ」の小川由恵さん。
西山商店街で働くこちらの4人に、商店街オープン後の取り組みやそこから得た学びや課題、町に起こった変化について伺いました。
植村:僕たちも普段営業中に顔は合わせているけど、全員揃ってゆっくりと話をする機会はあまりないので新鮮です。
植村:そうですね。コロナによるダメージはあると思いますが、実質コロナ禍の中でやり続けているので、客数や売上に対してコロナの影響を受けているかはわからないです。
小川:私はコロナがあったことで、お客さんが西山商店街に目を向ける機会になったと思っています。この地域の方々は、車やバスを使って星ヶ丘周辺に買い物に行きますが、コロナ禍になって近所で用事や買い物を済ませたい方が増えました。商店街の人通りも増えて、西山商店街への認知が広がったと感じています。
植村(麻):特に、草木花の店たんぽぽさんは「ステイホーム」を機に、観葉植物や生花の人気と相まって、行列ができる日もありましたよね。
小川:この地域の方でも、商店街を知らない方は多い印象です。地区によっては商店街の通りが生活圏ではない方もたくさんいます。私はこの近くに住んでいますが、最寄りの郵便局もスーパーも、商店街にあるのとは別でした。
植村:西山商店街のことを知らないとか、行かない、聞いたことがないという住人の方はまだ多いように感じています。でも僕個人の意見としては、商店街から徒歩圏内の方がターゲット。日常的に使ってくれる方、近くで暮らす方をメインで考えています。それでもニシヤマナガヤは、この地域外のお客さんが来てくださるのでありがたいです。
内海:僕の店はコーヒー好きな方が遠方から来てくださり、焼菓子moegiiroさんもSNS経由で、さまざまな地域からお客さんがいらっしゃいます。一方で、草木花の店たんぽぽさんはご近所の主婦層を中心に、この地域で暮らす方が多い印象です。
小川:うちの店は地元の方がほとんどですが、コーヒー屋さんと焼き菓子屋さんがいるおかげで、普段知り得なかったようなお客さんと繋がれました。
植村:新しい人を呼ぶ場所としては、2階のレンタルスペースも貢献していますね。現在は「ふしぎcreative」が週3回ほど、「こどもりょうり塾」が月1回ペースで開催しています。
植村:絶対レンタルスペースをつくりたかった訳ではなくて、オーナー的な立場で言うと、固定で入ってもらった方が楽だとは思っていました。ですが、この商店街の2階で店をやりたいという方は、なかなか見つからず……。入居者を探していた際、昔から付き合いのあった「イリエ制作所」さんから、キッチンを置きたいと連絡をいただきました。せっかくキッチンがあるなら、いろんな人に使ってもらえるようにと、レンタルスペースにしたのがきっかけです。
植村:良かった点は、行事内容によって訪れる人が変わるので、新しいお客さんがニシヤマナガヤのことを知ってくれること。つくってからも使う人によって場所が変化するような、“余白の部分”があると、新しい層を取り込むチャンスに繋がるのだと、やってみてわかりました。
植村:「ノキノイチ」は商店街にある店舗さんと、外部の出展者さんを募って開催しました。コロナ前まで商店街の夏祭りがありましたが、中止になったのをきっかけに、僕たちで商店街のイベントをやってみようと思ったのがきっかけです。
内海:1日で約1週間分の売上くらい、多くの方にお越しいただき盛況でしたよね。
植村:いきなり最初から商店街にいる方々を巻き込むのは難しいですが、イベントを一緒にやることで頑張ればこんなことができると、成功体験を得られたのが大きな成果だと思います。「次もやる時は声かけて」と言ってくれる方もいてうれしかったです。
植村:商店街の組合員を組織化できていないため、理事長か副理事長の僕に話が集まってきてしまい、結局案件全てを対応しきれていないのが課題です。組合員の役割分担が必要だと感じています。あと「ノキノイチ」みたいなイベントも、皆で協力してやっていきたいですね。いろいろ挑戦してみたいという方はいるので、あとはやりたい人同士を繋げて、イベントなど形にしたいと思います。
植村(麻):ニシヤマナガヤができた後に、何軒か商店街に新しい店ができました。すでになくなってしまった店もありますが、本屋、タイカレー屋や中華料理店など、今までこの商店街にはなかったジャンルの店が増えましたね。商店街の雰囲気も変わったんじゃないかな。
小川:お客さんから「こんな店ができたらいいな」とあがった店が、少しずつ叶っていますよね。
植村:最初は「カフェが欲しい」という声があがって、ニシヤマナガヤができた。でも、ニシヤマナガヤにはご飯屋がないので、「ランチが食べたい」というお客さんが増えて、新しい飲食店ができた。最近は「雑貨屋が欲しい」と聞いて、ついに雑貨まで来たのかと実感しています。
小川:星ヶ丘はいろいろ揃っていて便利だけれど、近所でふらっとする場所が欲しいと、お客さんがずっと言っていました。「今、商店街にさまざまなお店ができたのは、ニシヤマナガヤができたおかげ」だって、最近はそんな声を聞きます。
内海:これからも商店街の中にいろんな店が増えたらいいなと思っています。目的を持って来てくれる方はいますが、「ここに行けば何かあるよね」と、商店街に行けば楽しいことがあると思える場所にしたいです。
植村:毎週日曜日に、ニシヤマナガヤでイベント「本とパンと珈琲の日」を実施しています。こうした小規模でも定期的に行えるイベントをやることで、商店街が楽しい場所だと広まってほしい。そこから各店舗の魅力を知って、また商店街に来るきっかけをつくれたらと思っています。僕は「日常」を大事にしていて、この地域の人たちにとって商店街が日常に寄り添える場所になる取り組みをしていきたいです。
何もしなくてもそこにあり続けるのかもしれない。でもそれではなんだかもったいない。挑戦する分だけ苦労もリスクも伴うが、それでも「商店街の一員」としてやりたいことがある。
大きな変化を起こすのは難しい。とはいえ、ニシヤマナガヤが西山商店街の変化のハブとなり、お店や地域で暮らす人同士の関わりが増えていくことが、少しずつでも街の景色を変えていくと信じて。